General Remarks


 障害競馬は主にヨーロッパ、他にはオセアニアや日本、アメリカで行われています。その中心となるのがイギリス、アイルランド、フランスであり、例えば2014年の競争回数ではイギリスが3397、アイルランドが1402、フランスが2258と、3国で4位のイタリアの173を大きく引き離しています。特にアイルランドでは平地競争よりも障害競馬の方が競争回数、出走頭数ともに上回っており、その高い人気が伺えます。

 競争回数4位にはイタリアの173、次いでチェコの163、アメリカの156、日本の125と続きます。これに続くのはオセアニア諸国であり、ニュージーランドが98、オーストラリアが84となっています。

 それ以降は比較的規模は小さくなります。ポーランドが40、スイスが35、スロバキアが24と続きます。その他スウェーデン、ノルウェー、ハンガリー、ドイツ、ベルギー、オーストリア、ロシアなどでも行われています。南米や日本以外のアジア諸国、アフリカや中東では障害競馬は行われていないようです。いつか障害競馬がこれらの国にも広まる日が来ると良いですね。

(参考:JAIRS 世界の競馬および生産統計


・United Kingdom / イギリス

 2015年では約3700レース近い障害競馬を行い、世界的な障害競馬の中心となっています。競争馬、騎手や調教師の手腕といい、全てにおきて非常に高いクオリティを誇り、ハイレベルで素晴らしく成熟した障害競馬が展開されています。イギリス調教馬が海外に挑戦することは多数ある一方、イギリスの大レースにはアイルランド調教馬を中心に海外調教馬も参戦してきます。イギリス競馬において中心的な開催となるのは、3月のCheltenham Festivalと4月のGrand National Festivalです。Cheltenham競馬場で行われるCheltenham Festivalでは、イギリス障害競馬に設置されているほぼ全ての路線のチャンピオンを決定するレースが行われ、春の訪れと共にイギリス障害競馬ファンの熱気は最高潮に達します。Cheltenham競馬場のスタンドには"The Home of Jump Racing"との文字が入っており、その誇りと歴史を感じさせます。また、4月のAintree競馬場で行われるGrand Nationalは世界的に有名な障害競馬であり、イギリス国内における人気は平地競馬すら凌駕しています。

・Ireland / アイルランド

 競争数では約1400とイギリス、フランスには及びませんが、平地の競争数が約1100と、障害競馬が平地競馬よりも競争数において勝っている唯一の国です。イギリスとほぼ同様のレース体系や障害を用いており、2国間の競争馬の交流は非常に盛んです。アイルランドの競争馬の質や騎手、調教師の手腕も高く、イギリスと同様に非常に迫力のある素晴らしいレースが展開されています。事実、2017年のCheltenham Festivalには多数のアイルランド調教馬が参戦し、その勝ち星の数ではイギリス調教馬を圧倒しています。イギリス調教馬よりも積極的に海外遠征を行っており、特にトップトレーナーのWillie Mullins調教師、勝率3割越えというアイルランドチャンピオンジョッキーのRuby Walsh騎手は日本を含む様々な国に挑戦し、勝ち星を上げています。4月の末に行われるPunchestown Festivalがアイルランド障害競馬の頂点となっています。

・France / フランス

 競争数では約2200とイギリスに次ぐ世界2位となっています。競争馬の質、騎手や調教師の手腕は非常に高く、ハイレベルでスペクタクルな障害競馬が展開されています。障害の性質はイギリス・アイルランドとは大きく異なっており、特にSteeplechaseでは多様な障害を使用しているのが特徴です。例えばフランス障害競馬の中心であるAuteuil競馬場だけでも約10種類の障害が存在しています。Cross Countryの開催も比較的多く、欧州Cross Country SeriesであるCrystal Cupの勝ち馬はフランスから出ることが多くあります。イギリス、アイルランドと比較すると、障害の性質の違いによるものか、やや競争馬の年齢層が低めであり、その分若馬のための限定戦が整備されています。フランス調教馬の海外挑戦も多くあり、その実力は各国で高く評価されています。フランスへの海外馬の参戦も多く、特にHaiesにはイギリス、アイルランドから数多くの馬が挑戦しています。


・Czech Republic / チェコ

 チェコ障害競馬は、その頂点として君臨するVelka Pardubickaで世界的に有名です。Pardubice競馬場で行われるこのレースは、カテゴリーとしてはSteeplechase Cross Countryに属し、かつては完走馬がいなかったこともあるほどの世界一タフな障害レースとすら言われています。しかし決して無茶なサバイバルレースではなく、非常に完成度が高くスペクタクルな障害競馬が展開されています。現役騎手で調教師のJosef Váňa(2017年現在64歳)はチェコ障害競馬における伝説とされ、Josef Váňa調教師を中心にイタリア、ポーランド障害競馬に多数の参戦馬を送り込み、勝ち星を上げています。

・Italy / イタリア

 近年では何かと大変なイタリア競馬ですが、Merano競馬場を中心に障害競馬が行われています。Merano競馬場のSteeplechaseにおける生垣障害は馬の頭の高さほどもある巨大なものとなっているほか、三連続障害や二重生垣障害をはじめとするダイナミックなCross Country Courseを持ちます。レースは障害開催国の中でも際立って国際色が豊かなものであり、例えばイタリアSteeplechaseの最高峰であるGran Premio Merano (G1)には、フランスやアイルランド、チェコ、ドイツといった多様な国のメンバーが集まります。

・Germany / ドイツ

 競馬全体の規模から考えれば障害競馬の規模は非常に小さいドイツ障害競馬ですが、その馬質の高さを存分に生かして、ドイツ障害のトップホースはイタリアやスウェーデンなどの周辺国でも活躍を見せています。また、Seejagdrennenと呼ばれる、途中で池の中を泳ぐ障害レースは、世界的にはドイツにしか存在しません。

・Poland / ポーランド

 近年ポーランドは三冠馬Cacciniや、ドイツ重賞を勝利しポーランド史上最高レーティングを獲得、"ポーランドのFrankel"とも呼ばれるVa Bankを輩出するなど、スターホースが現れています。障害競馬は主にWrocław競馬場にて行われており、比較的フランスやチェコに類似した障害が設置されています。ポーランド障害競馬からも新たにCrystal Cupにエントリーされるなど、今後の発展が楽しみです。

・Sweden / スウェーデン

 やや障害競馬の規模としては小さいスウェーデン競馬ですが、Strömsholms競馬場で行われるSvenskt Grand Nationalが特に有名です。チェコやドイツ、ノルウェーなど、比較的多彩な出自のメンバーを集めることが多いようです。障害は本格的な生垣障害が設定されており、ピクニックに来たファンが見つめる長閑な競馬場で行われる熱い戦いは必見。

・Russian Federation / ロシア

 近年ロシアにおいても障害競馬が復活しました。比較的チェコやポーランドに近い障害コースを持つRostov競馬場や、ダートコースに小型のHurdleを設置したKrasnodar競馬場で障害競馬が行われているようです。最近Krasnodar競馬場にもRostovと同様のコースが設置された模様?


・Australia / オーストラリア

 近年動物愛護団体の過激なバッシングを受けた結果、オーストラリア障害競馬は障害の難易度の低下などの措置を講じています。それでもある程度のレース数は保っており、その再度の振興が期待されます。Steeplechaseは比較的日本のものに近く、掻き分けて飛越するタイプであり、Hurdleはイギリスのものに類似しています。日本においては、中山グランドジャンプを3連覇し、オーストラリア競馬において殿堂入りも果たしたKarasiが有名でしょうか。なんだかんだで日本からも近い国であり、映像やサービスも充実しているので、日本からの関心も高まって欲しいところです。

・New Zealand / ニュージーランド

 比較的平坦な競馬場が多いオセアニア障害ですが、ニュージーランドのEllerslie競馬場のSteeplechaseには巨大な丘を昇り降りするコースが設定されています。ニュージーランドSteepleの最高峰であるGreat Northern Steeplechase (PJR)では、この丘を3回昇り降りする厳しいレースが展開されます。障害の難易度はオーストラリアと比べると高く、欧州のそれとも遜色ないものとなっています。障害競馬の開催期間と気候の関係から、重馬場でレースが行われることが多い点も特色の一つ。


・United States of America / アメリカ

 競馬全体の規模から考えれば、障害競馬の規模はかなり小さいアメリカですが、比較的整備された障害競馬体系が存在しています。レースはいわゆるHurdleに近いNational Fenceと木製の柵を用いるTimberに分類されます。他国とさほど馬の交流があるわけではないですが、ヨーロッパを走っていた馬がその後アメリカに移籍することはある程度の頻度であるようです。


・Japan / 日本

 日本障害競馬は他国と比較するとやや特殊です。賞金額が他国と比べると非常に高いこと、1レース辺りの出走頭数が多いことが挙げられる他、牡馬を未去勢のままレースに用いること、負担重量が他国と比べると軽いことなど、やや他国とは異なった様相を見せています。障害の難易度はオセアニアと近く、ヨーロッパと比べると比較的平易であり、どちらかというとフラットのスピードをそのまま生かしたレースが展開されます。日本競馬はこの20年で世界トップクラスまで躍進し、フラットの馬を転用する日本障害競馬の馬質もまた非常に高いものがあります。一時は中山グランドジャンプが国際招待競走として行われており、多数の外国馬を集めていましたが、近年国際競争に変更され、外国馬の参戦も少なくなりました。