1. Principle Races


 まずは各国における主要競走の完走率と競争中止の内訳を比較してみましょう。以下は2008~2018年における完走率と競争中止の累計の内訳となります。青が完走率、薄いオレンジが落馬(FallとUnseated Rider)、緑が途中棄権、黄色はその他の理由で競争中止した割合です。画像はクリックで拡大します。競争中止の詳細はこちらで。

Figure 1 各国主要競走の完走率・落馬率・途中棄権率

 日本の中山大障害・中山グランドジャンプはほぼ同様の傾向を示しますが、2015年の中山グランドジャンプで5頭の落馬があったため、若干中山グランドジャンプの方が完走率が下がっています。これとほぼ同様の傾向を示すのがイギリスのChampion Hurdleで、完走率及び落馬率は同程度となっています。それにしても、同じHurdle競争でも、イギリスのChampion Hurdleの完走率の高さは他国の主要Hurdle競争(Hurdle、Haies、Siepi)と比較しても頭一つ抜けていますね。このように考えると、日本の中山大障害・中山グランドジャンプは、性質としては海外のHurdle競争に近いものであるといえるかもしれません。特に、障害として似たようなものを用いるGran Corsa Siepi di Meranoと類似した落馬率を示しているのは興味深い内容です。ただし、日本の途中棄権率の低さは特筆すべきものがあり、これは疲労による途中棄権という概念がない日本特有のものでしょう。

 

 同じオセアニア障害でも、オーストラリア(ビクトリア州)とニュージーランドではHurdleとSteeplechaseの間でやや様相が違います。オーストラリアはSteeplechaseの方が完走率が低く、落馬率/途中棄権率と共に高くなるという他国と同様の傾向を示していますが、ニュージーランドはHurdleとSteeplechaseの完走率・落馬/途中棄権率は同様の数値を示します。ニュージーランドのGreat Northern Steeplechaseは6400mとニュージーランド最長距離を誇ること、これに対してビクトリア州のGrand National Steeplechaseは4500mで、ビクトリア州最長距離を誇るGrand Annual Steeplechaseの5500mと比較すると短いことを考えれば、ニュージーランドGreat Northern Steeplechaseはニュージーランド障害馬にとっても非常にタフなレースとして完走率が下がるように思えるのです、が。

Figure 2 VIC Grand NationalとGreat Northern Steeple / Hurdleの馬場状態

 Grand National Hurdle / Steeplechaseが行われた際の馬場状態と、Great Northern Hurdle / Steeplechaseが行われた際の馬場状態を比較してみましょう。Grand National Hurdle / Steeplechaseは別の日に開催されるためそれぞれ1回、Great Northern Hurdle / Steeplechaseは同日なのでまとめて1回としてカウントしています。いずれも南半球における冬季に行われるため馬場が悪化するのは仕方がないのですが、ニュージーランドの方がより重馬場に偏った開催となっています。特にHeavy11(Penetromater Bandにて5.6以上、フランスのtres lourdクラスに相当)の開催が目につきます。例えば、スコールが断続的に降り続くことによって歴史的な不良馬場で行われた2017年のGreat Northern Hurdleの勝ちタイムは6分12秒45(4190m)であり、同じような距離(4250m)の2017年の中山グランドジャンプの勝ちタイム(4分50秒8)と比較すると、その馬場の異様さがわかるでしょう(もっとも、日本の馬場が異様なまでに時計が早いというのもあるのですが)

Figure 3 2015-2017におけるニュージーランド障害競走の馬場状態

 さらに、上のグラフは2015年から2017年にかけて、ニュージーランドにて障害競走が行われた全91開催における馬場状態の統計です。優に60%以上の開催が"Heavy"(すなわち、Penetrometer Band > 4.6)、約40%の開催がHeavy11で行われたことがわかります。Great Northern Hurdle / SteeplechaseはEllerslie競馬場で実施されますが、全体の傾向ともそんなにズレはなさそうです。このようなニュージーランド障害競走における特性を考慮すると、レースの特性として、非常に重い馬場状態に脚を取られペースは上がらないため慎重な飛越が可能になるとともに、レースにおける勝利要件としてスピードを出して前にでることよりも、完走することの比率が高くなることが想定されます。これは落馬率の低下と、平均出走頭数と賞金が支給される範囲を考慮した途中棄権率の安定化に寄与することが考えられます。また、一般レースにおいても慎重な飛越が行われるために、結果的に一般レースを通じた障害飛越技術の向上にも繋がるのかもしれません。加えて、ニュージーランドのHurdleとオーストラリアHurdleの形状は類似している一方で、オーストラリアSteeplechaseは近年易化が進み、よりスピードが出やすい形態へと変更されていることも、オーストラリアSteeplechaseが落馬率が増加している一因と考えられます。このように、ニュージーランドSteeplechaseではより障害に慣れた馬が重馬場により慎重な飛越を行うことによって、Hurdleと同様の完走率・落馬/途中棄権率を生み出しているのかもしれません。実際に、Ellerslie競馬場のSteeplechase Courseの障害はニュージーランドSteeplechaseとしては一般的なものです。Great Northern Steeplechaseは道中で3回もElleslie Hillを昇り降りするタフなコースですが、その分慎重なレースが展開されると考えれば辻褄が合います。

 

 さて、他とはやや違った傾向を示したオセアニア障害について考えてみましたが、やはり上記のFigure1で目につくのは英Grand Nationalの際立った落馬率ですね。次はこれを掘り下げてみましょう。